「なんでこんなに面白い本が絶版に!?」



押川春浪は、日本SFの先駆的作品といわれる「海底軍艦」を明治33年に発表し、冒険物の分野で大ヒットを飛ばし続けた大衆文学作家だ。
押川方義(まさよし)という、謹厳実直なキリスト者の長男。
父親は、東北学院を設立し、政界にも知人の多かった著名人だが、息子のほうは厳父とは正反対の蛮勇型の遊び人になってしまった。
通った学校を次々に放校になるが、父の縁故で東京専門学校に落ち着いたのち、実弟でのちにプロ野球創立の父となる押川清とともに野球部で活躍する。
「海底軍艦」で大衆文壇の地位を確保したのち、アマチュアの運動愛好会「天狗倶楽部」を結成し、野球や相撲で遊び、野球界や文壇で今日も知られる多くの人と交流する。
若いころからの飲酒癖がたたり、大正年間に38歳で没するまで、多彩な人間ネットワークの中心に居続け、人々をおもしろがらせた人生だった。
押川春浪作品の解説の部分もおもしろいが、このころの人間関係についての記述がもっとおもしろい。
当時のネットワークやその雰囲気を伝える記述が豊富で、この一点だけでも、当時の野球界、文壇に関心のある方には読んでいただきたい本である。
わたしにとっては、関心のある小杉未醒と桜井鴎村への言及があったこともうれしいことだった。

