
北川智子著「ハーバード白熱日本史教室」を読んだ。
この人の成功に、いちゃもんつけたい人が大勢いたことは知っていたし、読んでいて、なるほどこれでは、と思った点はある。でも、全体として、わたしは、素直に拍手を送りたい。
すくなくとも、3つの点で、この人の行動は賞賛に値する。
・外国人に日本史を教えることの意味は、ということをよく考えている。
・日本史に限らず、学問するということの意味や、その生かし方を、学生に体得させようとしている。
・学問の専門家としてではなく、学問する先輩として学生を導くのが大学教師の仕事であると割り切っている。
日本史を学ぶことで、日本がどんなにすばらしい国であるかを知ってもらう、だとか、日本史自体がこんなにおもしろいとわかってもらう、だとかいうことには、力こぶを入れていないことが、まずよい。
「日本史」という限定されたフレームのなかでも、もっと大きく「歴史」を学ぶとはどういうことか、ということを問題にして、日本史を単なる方便として利用するスタンスなのがよい。
この人は、日本史以外の教科を教えることになっても、すぐれた教師になるだろう。
ただ、日本史のエキスパートから言わせると、その内容があまりに表層的かつ独善的、つまり、学問的なステップを無視しすぎなのが気に食わない、ということだったのだろう。
そんなことは、北川さんも承知のうえだ。
正面切って、日本の大学で日本史研究している日本史の象牙の塔の住人たちとやり合う気など、さらさらない。
まだ36歳。いまはケンブリッジ大学で中世数学史の研究をしているという。
最近出た「ケンブリッジ数学探偵」は、数学の専門家たちから、またしても反発を食らう内容になっているようだが、まあ、どうしても、北川さんがやると、そうなってしまうのだろう。
従来の大学の先生たちとは、そもそも学問をすることの方向性が違っていると思うから。
もっとも、大学で研究している必要がある人なのかどうかは、考察の余地ありなのかもしれない。
でも、お金を出してもよいという大学が海外にでもあるならば、双方の目的が一致して、お互い幸せで、たいへんよろしいのでは?
だいたいにおいて、海外に出て自然体でしなやかに活躍している日本人は、「日本は」、「日本では」ということを力説したりしない。
だから、逆に、世界という舞台では受け入れられる、ともいえる。
最初から「世界人」として行動しているから、外国の人も受け入れやすいのだ。
なんだかこの人、おもしろい。
そんな人が、日本語で本を書いてくれるのが、正直なところありがたい。
